この授業も次第に終盤に近づきつつあります。私自身は英語を教え出してからすでに40年近くなります。いつもみなさんの模擬授業を見ながら自分を振り返ります。一つは、私が高校の教員になった頃よりも、みなさんの英語は上手で自然だと思って見ています。その分、中学生や高校生をどのようにイメージして授業をしているかがちょっと不安です。二つ目は、私もそうですが、みなさんがそれぞれ教えることの信条・信念(beliefs)がかなり確立していると思うことです。三つ目は、逆に、ほかの人の授業を見て、表面的に真似をして、無難に処理しようとしているような気がします。これは、たった20分で授業を演じなければいけないので、どうしてもそうなってしまうことが原因でしょう。この授業で実施する模擬授業の限界かなと反省してます。さいごは、みなさんの視点が微妙に違っていることと、コメントなどで意外と本音を言わない雰囲気を感じます。教師に本当になるとしたら、たぶんもっと言いたいことや疑問があるだろうと思います。だれかを批判することではなく、「あれ?この指導はどうなのだろうか?こうしたら良いんじゃないだろうか?」と考えること(考えられること)が、ふりかえり(reflection)であり、この授業の目標です。
さらに、みなさんのレポートでは、やはり科学的な思考(自分の教え方や考え方に対する根拠)が、どの程度加わるか期待したいと思います。
さて、以下は今回の模擬授業の感想です。評価ではありません。
11 AA先生の授業
明るい性格でとてもよかったですね。教師として教壇に立ってもうまくできると思います。ただ授業の時も言いましたが、ごく普通の英語の授業で、教師が陥りやすい間違いがいくつかあったように思います。あまり準備時間がなく、深く考えないでしてしまう典型的な授業となっていたようです。AA先生は、きれいな発音を生徒を元気づける明るさと授業中の判断に優れているので、授業とはどういうものかをしっかりと考えれば、生徒みんなに信頼される教師になれます。その点を踏まえて、改善点を書きます。
一つは、授業を計画する際に、教科書教材をしっかりと理解することです。この授業は単元と呼んだりするシラバスのどこに位置するのか、何をこの授業で学んでほしいのか、語句、発音、文法などについて、生徒がどう理解してほしいのか、などを、きちんと計画しないと、教育実習では問題がおきます。「説明」=「教える」とはなりません。実際の授業では忙しかったりすると、そのようなことは頻繁にありますが、だからと言って、そうしてよいとはなりません。このようなことを繰り返していると何の進歩もないし、この模擬授業も意味がありません。簡単に言えば、「ていねいな指導」です。手抜きはいけません。
二つ目は、上とも関係しますが、かなり大切な部分を早口で説明しました。中学校1年生にはかなり危険なことです。40人いたら理解できる子はごく少数です。大半はわかりません。ただ、これはAA先生は、実際に中学校1年生を前にすればうまくできるように思います。準備をきちんとすればの話ですが。
Presentation 説明ではなく、実際を見せて、理解を図る
Practice 実際に示した表現ややりとりの基本的な言語材料を納得してもらう
Product 応用の場面や状況で実際に一人でできるかどうか試す
(当然うまくいかない場合は修正する)
ということをきちんと理解していれば、問題はありませんが、誤解しているかもしれません。「模擬授業だからpracticeを省略します」というのは危険です。授業は流れですから、それを省略したら授業は理解できません。
三つ目は、最も大切なことで、文法を目標とすれば、その文法のポイントをきちんと理解するために教材研究をしっかりすることです。中学校1年生ほどしっかりと準備しないととんでもない間違いをおかします。ここでは細かいことは省略します。
Do you have a pen now?
Did you have homework yesterday?
のdoの説明に、『Doは〜するの意味の動詞』『Didは過去の出来事を表す〜したの意味』というようなことがワークシートに書いてありました。これはあまり重要ではない誤りのような気がしますが、かなり重要な誤りです。よく考えてください。
少し忙しい状態でこの授業に臨んだのではないでしょうか?最初にも述べたとおり、AA先生は教え方は上手です。教師を目指せば十分にやっていけると思います。再度自分の授業を見直してください。すべて英語で授業はできた内容です。
いろいろと考えさせられた授業でした。どうもありがとう。
12 IN先生の授業
IN先生は高校1年生のかなりレベルの高い生徒を想定して授業をしてくれました。教えることに慣れているし、かなり熱心に教えるということを考えているので、ぜひこのまま教職ということを追求してもらいたいと思います。もっと深く様々な知識を吸収していくと、将来は日本の英語教育界で活躍するのではないでしょうか?特に、感じたのは、生徒に対する熱意がよく伝わります。「教える」ということの最も強い力は情熱(passion)と言われます。IN先生にはそれがあります。このままがんばってください。
それを踏まえて、少し異なる視点から感想を書きます。教育の領域で現在一番の主流は、「学習者の自律(learner autonomy)」です。それとともに「動機付け(motivation)」です。言語教育では、その点から、多様な分野で使われる多様な言語をどのように学ぶか、あるいは、教えるか、というようなことが、主に注目を集めているように、私は受け止めています。英語教育では、English as Lingua Franca(ELF)として英語の位置付けです。日本での英語教育もその影響を受けて、小中高の英語教師は指導することが求められるようになっています。
その点から考えれば、「英語の授業は英語でする」は望ましいことで、自然な流れです。しかし、文科省も言っているとおり、大切なことは生徒が英語を使うかどうかが問題で、教師が英語で話す、ということではありません。IN先生は、教科書の題材の内容について、生徒とのやりとりの中で理解を深めようとしていました。私はこのようなシンプルな活動は大好きです。ぜひ追求してください。それほどむずかしいわけではなく、とても自然だと思います。私自身も高校で教えているときにそうしていました。大学でもそうです。
その際のIN先生への懸念は二つあります。一つは、やはり高校1年生にはもっと別な観点からていねいな指導が大切です。前段階として、語句の理解の確認、教科書理解のためのなんらかのサポート、音声面の指導への配慮、背景知識の導入などなど、指導段階でのていねいさです。資料などだけでは不十分です。
教師は絶対的な権力を持っていますから、厳しくすれば厳しくできます。「日本語禁止!」は簡単です。いまの若い人の多くはそのような上からの指示に従順ですが、世界的な教育の流れからすると、ちょっとマイナスです。もっと自由な発想や自律性を育てることのほうが大切だと、私は思います。強制されるほうが生徒は意外に楽です。しかし、弊害も出ます。つまり、冒頭に述べた自律が育たない可能性が出てきます。そこをよく考えてもらいたいと思います。英語を教えることの目標は大学受験だけではありません。その先を見るのが本当の英語教師だと私は考えます。
IN先生は、生徒のために多様な配慮をして、よく考えています。間違いなく、生徒想いの情熱あるよい先生です。supplement handoutは自分のためにもよいし、生徒のためにもよいでしょう。このような資料を与えることで、授業活動は英語のコミュニケーションに焦点を当てるということもよく理解できます。指導案を見ると、仮定法はすでに理解していて、語句も理解し、本時は、その本文の内容理解に焦点を当て、生徒に英語で質問し、理解を図るとするという構成のようですが、現実的にはちょっと厳しいようです。20分の授業でその一部を見せるということでちょっと苦労したかもしれません。本時を本文全体の内容理解の復習と位置付け、展開するほうがよかったかもしれません。そのほうが教科書のthesis statementに焦点を当てられたでしょう。20世紀はどうであって、いま21世紀を生きている高校生は20世紀をどう考えるのか?そうすると、IN先生が立てた目標はより明確になったと思います。仮定法にはあまり焦点を当てなくてよかったでしょう。
ということで、二つ目は、仮定法・叙想法(subjunctive mood)についてです。授業では、教科書の内容に焦点を当て、その理解の確認と一人一人がどう考えるかということが主たる目標でした。そこに仮定法という文法が入ったので、焦点が混乱したように思います。私は仮定法はさらっとして、内容に焦点を当てたほうがよかったと思います。そこで別な観点で、文法の扱いについて感想を述べておきます。
文法は重要です。特に「書く」ということに関しては、文法を知らなければ書けません。帰国子女で、英語はペラペラ話せても、書けないという人はたくさんいます。仮定法・叙想法(subjunctive mood)という用語についても、あまり強調する必要はないでしょう。大学受験などではいまでも大きな項目なのかもしれませんが、話し言葉では、基本は、表現を和らげる効果に利用されます。友達同士の会話ではほぼ必要としません。書き言葉でも、文学作品を書く場合には必要かもしれませんが、レポートなどを書く場合にはほぼ話し言葉と同じで、助動詞の一つとして教える程度でもかまいません。聞く場合は、どうでしょうか?これもあまり必要としないでしょう。問題は読む場合です。教科書にも出ているように、読む場合は、特に文学的な作品などではよく出てきます。実際の場合は、様々なビジネスや情報などの文書で、厳密には仮定法ではありませんが、ifが省略された表現は比較的多く使われます。たとえば、
Should you need any help, just let me know.
などの表現はごく普通に使われます。ということで、適宜文書を読むなかで理解を確認する程度で済ませて、授業内では違う活動をするほうが効率的だと思います。このように、文法は教え出すとキリがありません。教師は好きですが、生徒がみんな好きだとは思いません。また、受験に出るとしても、現在は書き換えたりするようなへんな問題はほぼ出ません。出せばそのような大学は批判の対象になるでしょう。
ということで、授業後、「文法指導と本文内容を英語で理解することの整合性はどうなのか?」と質問したわけです。
いずれにしても、IN先生のような人が日本の英語教育を発展させてもらえればうれしいかぎりです。がんばってください。ただし、生徒もいろいろな考え方をするので、一つの方法を押し付けないほうがよいと思います。
おもしろかったです。ありがとう。
いつものことですが、殴り書きです。誤字脱字、誤解などはご容赦ください。不明な点はあとで質問してください。
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